去年発売されたホウイ・エプスタインのアルバム、[Early Tracks Vol. I ]を、遅ればせながら入手した。
Howie Epstein - 日本語の表記では「ホウイ」が多いが、私が発音するときは「ハウイ」の方が多い。1955年ミルウォーキー生まれ。トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのベーシストであり、素晴らしいバック・ボーカルも聞かせてくれる才能豊かなミュージシャンだった。
私が初めてTP&HBに触れたときの編成は、ハウイが居た − トムさんの言うところの「オリジナル・ファイブ」のころだった(結成当時の「オリジナル」ではないが、トム自身のTP&HB原風景であり、ベスト・メンバーらしい)。ビートルズ・ファンである私は、TP&HBの美しいコーラス・ワークに心を奪われた。それは、ハウイの素晴らしい声があってのことだった。
まるで恋に落ちるがごとき勢いで、トムはハウイをバンドに引き込んだ。トムには、自分に必要な人と才能を正確に見極め、確実に手中に収める才能がある。
トムと同時に歌うと、どっちがトムで、どっちがハウイか分からなくなるほどの、完璧なブレンド。しかもハウイには独特の響き − 地声でうたっているのに、倍音の多い響きで、高音を出すという才能があった。トムが惚れ込むのも無理もない。
マイクも、音楽の面でハウイを語るとき、トムとの完璧なコーラスワークを挙げた。
TP&HBにとって欠かせない重要人物だったハウイだが、悲しいことに2003年にドラッグのオーバードウズで亡くなった。1999年のアルバム[ Echo ] のころには、衰弱の度合を深めつつあったハウイを思い、ベンモントは"Swingin'"での歌声を示唆して、言葉を詰まらせた。
[Early Tracks Vol. I]は、友人のPerry Lamekが、ハウイの若いころの録音をまとめてCDにしたもの。ハウイの
MySpaceから、購入サイトにアクセスできる。
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このCDは手作り感満点の安っぽい作りである上に、70年代にハウイが自宅でカセット・テープに吹き込んだものなので音質も悪い。ところがその内容たるや、メジャー商業ベースで、大成功しているスターのデモ・トラックじゃないかと思うほどのシロモノなのだ。
ハウイはティーンエイジャーのはずだが、その歌声は殆ど玄人で、いささかギョっとさせられる。しかも彼が作った曲はどれも明るく、ドライブ感満点で、エッジが利いている。凄まじい勢いで音の激流が、小さすぎる器になだれこんで溢れてしまうような ― 圧迫感さえある。
そして、恐らくハウイ自身が最も力を入れたであろうポイント ― (オーバーダブによる?)コーラスの精緻な美しさ。ベース,ドラム双方が入っていない曲がほとんどだが、どうしても聞くのを止められない。
ハウイ、しかもまだ少年のハウイ。「鳥のように歌う」− ミュージシャンとしての才能をすでに開花させ、TP&HBという最高のバンドに加わるための条件を、すでに備えていた。
こういう人を、いわゆる「音楽の神様に愛された者」と言うのだろう。往々にして、この手の人はその神様に早いうちに命を召し上げられる ― ああ、そんな馬鹿な。そんな酷いことがあってたまるか。
若きハウイの音楽に感動し、嬉しくなり、元気になって、そして彼の不在がとてつもなく悲しい。悲しい、悲しいエコーがいつまでも響いている。
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