2011-05-29
7月に、某カルチャーセンターで「アイリッシュケルトを奏でる」というレクチャーコンサートが開かれる。その告知チラシには、こうあった。
アイルランド音楽の世界。「ダニーボーイ」「庭の千草」、ボブ・ディランもカバーしたという「ワイルド・マウンテン・タイム」など時代ごとに影響を与えた音楽の魅力を紹介します。
私はとっさに、「"Wild Mountain Thyme" をカバーしているのは、ディランじゃなくて、ザ・バーズ」と指摘してしまった。
とは言ったものの、ディランのことだ。どこでどんな曲を歌っているか分かったものでは無い。ゲーテなら大抵の事は言っているだろう。ディランなら大抵の曲は歌っているだろう…
ウィキペディアで実際に調べてみると、なるほどディランも歌っているらしい。しかし、その録音はブートレグ(公式ブートレグシリーズではない)のもので、やはり「カバーした」と表現されるにふさわしいのは、ザ・バーズの方だろう。彼らの録音は、アルバム [Fifthe Dimension] に収録されている。
1966年にしてすでに、ロックからフォークの原点に立ち戻っているあたり、さすがにバーズは突き抜けている。私はこの録音の "Wild Mountain Thyme" が一番好きだ。
"Wild Mountain Thyme" は18世紀末から19世紀初頭に生きたスコットランドの詩人,ロバート・タナヒルの作品をアレンジした物らしく、タイトルはほかに "Purple Heather" や "Will You Go Lassie, Go" などのバリエーションが存在する。タナヒルの国籍からすれば、この曲は厳密な意味でアイルランド音楽とは言えないかも知れない。しかし、20世紀になっておもにアイルランドのミュージシャンたちよって盛んに演奏,録音されてたため、代表的なアイルランド楽曲の一つになっている。
アイルランド音楽がアメリカ大陸に渡り、変容しただけあって、カントリーミュージシャンにも歌われている。
これは、カントリーの大物,ドン・ウィリアムズと、アイリッシュ・トラッド・ミュージックの雄,ザ・チーフテンズによる演奏。さすがに貫禄があって格好良い。ティン・ホイッスラーの私にとっては、背後で高音から舞い降りてくるホイッスルの音が、グっとくる。
最後に、アイルランド出身,アメリカに移住して活躍した、ザ・クランシー・ブラザーズの演奏。タイトルは、"Will ye go lassie go" を採用している。
ややカントリー向きに傾斜している編曲で、私の好みではないが ― やはりチーフテンズの方が胸に迫るし、バーズも軽さよりも深さを追求しているようで好きだ。
ともあれ、このクランシー・ブラザーズの楽天的な演奏にも、アイリッシュ独特の暗さが秘められている。クランシー・ブラザーズがディランの友人であり、彼に大きな影響を与えたことは有名だが、私がディランの好きなところの一つとしている、深い暗さ、哀切のようなものは、アイリッシュ・ミュージックから来ているのだとしたら、納得がいく。
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