写真・映画で見るグレン・グールド展
2013-10-08


カナダ大使館の前を通りかかったとき、大きな看板が目に入った。

写真・映画で見るグレン・グールド展

禺画像]

 グールドは20世紀最高のピアニストの一人であり、カナダ出身の世界的な「偉人」と見て間違いないだろう。カナダ大使館でその展覧会があっても不思議ではない。
 場所が場所だけに、開館時間は平日の昼間。勤め人にはきついが、偶然時間が取れたので、見に行くことにした。

 グールドのことを記事にするたびに、「私はグールドのファンではない」と力説している。ファンではないが、なんとなく聞きたくなるし、映画などがあると見たくなる。でも、ファンではない!…とやっていたら、「そういうの、ツンデレって言うんだよ」といわれた。
 …そうか。

 まず、小さなギャラリーに、グールドの写真が展示してある。
 圧倒的に若い頃の美男子グールドが多い。「ゴールドベルグ変奏曲」で衝撃的なデビューを果たした頃のグールドは、どの写真も美しく、格好良く、理想的な被写体ピアニストだったことだろう。
 その上、あの凄まじい演奏ときているのだから、魂を奪われるのも無理もない。

 ギャラリーには、「ゴールドベルグ変奏曲」が流れていたが、チラシには何年の録音の分かは書いていない。おそらく、1956年のデビュー作ではなく、晩年の再録音の方だろう。
 ギャラリーという独特の静謐さの中、美しいピアニストの写真と、その演奏というのは非常に雰囲気が良い。ときどき押し寄せるマダムの一団の嵐が過ぎ去れば、もとの静謐なバッハの世界。

 一方、映画というのは、ギャラリーの一方の壁に投影されているのが、それだった。
 作品は、[Glenn Gould's Tronto] 1979年 ― つまりグールドが亡くなる前年の作品で、実は映画ではなく、テレビ番組。どうやら、いくつかの「都市」を、ゆかりの有名人が案内するというシリーズがあったようで、グールドとトロントの回は、その一つだったらしい。
 テレビ番組なので映像は良くない。しかし、グールドがゾウとコミュニケーションを図ろうとする有名なシーンが登場する。
 今回の上映の場合、音はなし。字幕つきの映像だけが延々と流され、バックには例の「ゴールドベルグ変奏曲」という、いささかシュールなシチュエーションだった。だから、画面はトロントのディスコや、フォーク・フェスティバルや、ヒッピーのギター演奏だったりするのに、音楽はグールドのバッハ。
 さすがにこれはどうかと思う。ちゃんと時間を決めて、映像と音声を同時に上映した方が良かったのではないだろうか。50分の短い作品だけに、可能だったのではないかと思う。番組のなかでどうグールドの演奏が使われているのかも見たかったし、内容的にも面白かった。

 カナダ大使館からの眺めは美しく、ぼんやしとした午後。
 グールドとバッハに浸るのは悪くない過ごし方だ。
[クラシック]

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