1964 Concert at Philharmonic Hall
2025-03-10


ボブ・ディランの伝記映画 [A COMPLETE UNKNOWN] を見る気はないし、サントラも聞く気がなかったのだが、ラジオで流れたため、はからずも聞くことになった。
 大まかに言って、ティモシー・シャラメは上手いと思う。歌そのものが上手いし、ディランの真似としても上手い。ギターはどこまで彼が弾いた音なのかはわからないが。ともあれ、ディランを演じる歌唱としては、十分なクオリティだと思う。
 ただ、似ているだけに、微妙に「かゆい」。気持ち悪いというか、不完全さに苛ついてしまう。やはり私はボブ・ディラン当人のファンであり、彼の容姿も声も、彼自身だからこその、大ファンということを再度認識するに至った。

 「かゆみ」を鎮めるには、ディラン様本人のパフォーマンスを耳から叩き込むに限る。
 「かゆみ」を発症したのはだいたい1964年頃のディランの真似だったので、ブートレグ・シリーズ Vol. 6 [Concert at Philharmonic Hall] がちょうどいい。
 このコンサートと一番好きな場面は、” I Don't Believe You” の歌いだしの歌詞を忘れてしまい、イントロを長々と弾き続け、ああでもない、こうでもない。しまいには観客に「歌詞分かる人?」と呼びかけ、客先から教えてもらい、「そうだ、I can’t understand …」と歌い出すところだ。
 トラックの切れ目の関係で、このやり取りはその前の曲 ”It's alright ma (I'm Only Bleeding)” の最後に聞くことができる。ところが、YouTube(静止画だが)だと、観客とのやりとりがまるっきり切り取られているのだ。つまり、あの面白いやりとりを聞くには、CDを買うしかない…のか?配信やダウンロードではこういうものは、どうなっているのかよくわからない。もしオミットされているのだとしたら、とんでもなくつまらない話だ。やはり私は CD を買い続けるだろう。



 ラジオで流れた例の映画のサウンドトラックの中には、ジョーン・バエズとのデュエットもも含まれていた。彼女を演じた女優の歌もうまいし、ジョーン・バエズの真似もうまい。しかし、これまた「かゆい」。シャラメと合わせて二倍「かゆい」ので、やはりこれも特効薬は本物を聞くことだ。



 このデュエットでも歌詞に怪しいところがあって、二人でボソボソ相談しているのが面白い。幸い演奏中のやりとりなので、オミットされていない。「そっちの番なんだけど」、「なんだっけ?」「when」とバエズがいった途端に間髪入れずに歌い出すディランのタイミングも最高だ。

 ディランの長いキャリアの中で、60年代こそが最重要で映画にする価値があるというのが一般の認識だろうか。しかし、私にとっては長い長い彼のキャリア全般が素晴らしい音楽であり、性格に難のある「若気の至り」ではなくなってからの彼も、十分魅力的だ。
 私がプロデューサーだったら、ディラン様とジョージの友情物語の映画を作るなぁ。そりゃぁ、もちろん漏れなくトムさんも重要人物になるわけだけど。ラストシーンはディンによる “Something” で間違いないだろう。
 本人じゃないから気持ちが悪いと言いつつも、こういうことを想像するのは、この手の映画に一定の「布教活動」的な目論見があるからだろう。私にしてみれば60年代のディランにも、ビートルズにもいまさら布教活動は無用だが、ウイルベリー兄弟の物語や、ハートブレイカーズをたくさんの人に知ってもらうには、「モノマネ大会映画」も一つの手段かもしれないと思う。
[ウィルベリー兄弟]

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