Meeting Stones
2025-08-20


マイクの自伝を断片的に翻訳するシリーズ。今回は、”Hard Promises” をリリースした頃、ハートブレイカーズはニューヨークでのテレビ出演後に、目的は知らされずに呼び出された。とある建物のエレベーターの中で、一体何事だろうかとトムさんとマイクは顔を見合わせる。
 あるフロアに到着すると、リハーサル・ルームのステージ上にあるバンドがいたのだ…

 それはザ・ローリング・ストーンズだった。
 彼らは “Shattered” の演奏中だった。
 マイクロフォンのところにはミック・ジャガーがいて、チェリー・レッドのギブスンSGを細かなリズムを刻みながら歌っていた。ロン・ウッドとキース・リチャーズがミックの背後に居て、その斜め後ろのドラムスのところにチャーリー・ワッツが居た。ロニーがシルヴァーの彫刻つきのゼマイティスを弾き、キースは黒い5弦、メイプルネックの1972年製テレ・カスタムを爪弾いていた。
 まさにストーンズだった。その8割に過ぎないにしろ、ストーンズだった。
 曲が終わると、キースがミックとなにやらゴニョゴニョと話した。ミックはキースに頷いてみせると、SGをアンプに立てかけ、挨拶しに来た。リチャード(TP&HBのマネージャー)が私たちを紹介した。ミックは明るく愛想の良い感じだった。彼らは数日後に迫った、9月からのツアーに向けてリハーサル中だった。
 私がステージ上を見ると、ものすごい量のアンプの前に、古いサンバーストのフェンダー、Pベースがあった。
「ビルはどこに?」
 ビル・ワイマンの姿はどこにも見えなかった。
 ミックがため息をついた。
 キースはいつも遅れてくるのだと、ミックが説明した。ビルはそれに嫌気が差してしまって、いつも2日後に現れるのだという。ところが今回に限ってキースが時間通りに現れた。日付を誤ってメモしたに違いない。ビルは明日まで来ないだろう。
 トムがミックにギターを弾いていることについて尋ねた。
「ほら、あの二人とだろう?」
 ミックが舞台の方を見ると、キースとロニーがタバコを吸い、飲み物を飲みながら何やら愚痴をいっている。
「俺が弾かないと、あの二人やたらと早くなるから、歌詞が追いつかないんだ。あいつらのテンポを抑えるにはこれしかない」
 トムは、なるほどなるほど、分かるよと言いながら頷いた。私は彼を睨んでやった。
 私たちとさらに数分話して、ミックはステージに戻った。彼はSGを取り上げると、バンドはチャック・ベリーの “Too much monkey business” を演奏し始めた。
 ロニーがハンマー・オンにダブルストップをかけてイントロを奏でると、バンド全員がリズムに乗り出した。ミックはギターを弾きながらマイクロフォンに向かった。
 ミックが最初の歌詞を歌いだそうとしたとき、キースがドスドスとミックに向かってきた。
“Runnin’ to-and-fr〓”
 キースが手のひらをミックのギターのネックに打ち付けて、音を消した。ロニーとチャーリーがストップする。チャーリーは天井を仰いでため息をついた。
 キースはブルドッグのように唸り声を上げた。
「てめぇがバンドをリードするのは無しだ!」
 キースは細い指をミックとマイクロフォンに突きつけた。
「L、V!てめぇのしごとはそれだ、Lと fu**ing V!」
リード・ヴォーカル。
 ミックはギターをおろしてローディに手渡した。キースは自分のテレキャスターのヴォリュームを上げると、演奏に戻った。俺のヒーロー。曲はどんどん速くなっていき、ミックは歌詞を押し込むに苦労していた。
 ミックが歌詞につまづいていている間に、バンドは轟音を上げる列車のように突っ走っていく。ミックはトムと私を見やった。彼は手を上げて見せて、肩をすくめた。「ほらな?」
 曲が終わると、ロニーが私たちを見やって言った。
「おーい、誰かベー…」
「俺やる!」私はトムが口を開く前に叫んでいた。
 私はまさにステージへと一目散に走っていった。

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