愛蘭土紀行
2009-09-22


私が好きな作家は、司馬遼太郎。これは揺ぎ無い。
 純粋に作家として、好きなのだ。小説はとにかく面白い。
 没後は「司馬史観」なる言葉が使われ、なにやら思想家か何かのような扱いをされているが、私の感覚には馴染まない。某有名アニメ製作会社が、監督と司馬遼太郎の座談会で、意見が合ったということを、ことさら強調していたことがあって、心がしらける思いがした。
 とにかくひたすら、作家としてファンなのだ。あの表現力の凄さ、的確な情報の論述には圧倒され続けている。

 好きな作品トップ3は、「坂の上の雲」,「燃えよ剣」,「項羽と劉邦」。そのほか、戦国もの、幕末物、エッセイなども好きだ。
 (ただし、「竜馬がゆく」だけは読むまいと心に決めている。私はもともと、坂本龍馬という人物が特に好きだというわけではない。むしろ、世間一般に人気がありすぎて、敬遠している向きがある。それでも司馬遼太郎で龍馬を読めば、好きになってしまうに決まっている。それを避けるために、読まないことにしている。)

 中でも、「坂の上の雲」の好きさ加減は尋常ではない。最初に読んだ時は、あまりの面白さに中断できなくなり、仕事中にトイレで読んだりしていた。読了後はあまりの衝撃に、この作品は目に毒だと考え、しばらく読むことを自ら禁じた。
 また読み始めた時は、2度、3度の連続読みなどを繰り返している。
 そこまで偏愛しているので、この秋にドラマ化と聞いて「やめろ念力」を本気で送った。もっとも、私の念力など無力で、ドラマは放映される。怒りが収まらないが、見ないというわけにも行くまい。
 (そもそも、淳が「学問がしとうございます!」なんて熱く語って、両親の前に手をつく訳ないだろ!もっと生ぬる〜く行かなきゃ。しかも、お律さんの出番増えてるし。あの控えめな出方が良いのに!!イカン!あのラストシーンとか、淳と会う方向に改竄したら今度こそハレ・クリシュナの大鉄槌を食らわしてやる!児玉さんはもっと小柄でなきゃだめだ!田中と津野田を無視したら呪う!etc...エンドレス)
 
 さて。
 司馬遼太郎の紀行文シリーズに、「街道をゆく」がある。1978年から始まり、司馬遼太郎の死(1996年)まで続いた。
 紀行文といっても、まともな紀行文だと思って読んではいけない。むしろ、「歴史だべり」だと思った方が良い。
 司馬遼太郎が、興味のある国内外各地に出かけて行き、そこで感じた諸々を記したエッセイである。つまり、歴史の話をとめどもなく書き連ねたわけで、歴史好き(私)には面白く、紀行文を期待した人には大はずればかりなのだ。

 シリーズ30巻、31巻は、「愛蘭土紀行」。アイルランドを旅している。面白いのは、アイルランドに行くにあたって、まずはイングランドのロンドンと、リヴァプールを経由していることだ。司馬遼太郎自身が、そういうルートを取りたいと、是非に願った。
 無論、リヴァプールはアイルランドとの交流の地であり、さらに大量のアイルランド移民の町だという要因が強い。同時に、司馬遼太郎は「ビートルズの故郷」と記し、リヴァプールを語る上で重要な要素として取り上げている。

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 もっとも、司馬遼太郎自身は音楽に興味がない。確かに、彼の他の作品を読んでいても、音楽に関する記述は非常に少ない。
 彼が賢明なのは、音楽が苦手な以上、ビートルズを聴いてどうこういう批評はしていないところだ。興味もないのに、わかったような顔で音楽を聴き、どうにもならない感想を記録するという愚は、ビートルズ来日の時に複数の文士が犯している。
 司馬遼太郎は、ビートルズの音楽は聴かず、彼らに関する本を読んでいる。1987年ごろの話なので、まだそれらの本の内容も、怪しいところが多かっただろう。「作曲はポール、作詞はジョン」などという、今思うと凄まじい記述など、普通にあった頃ではないだろうか。

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